蒼夏の螺旋

   “お互い様な夏至”
 



日本では雨季かと思うほど雨の多い頃合いの終盤に、
一年のうちで一番昼が長い日がやって来て。
でも、夏はこれからなのになと小首を傾げておれば。
冬の冬至だってそうだろが、それからが本格的に寒くなんだからな、
小理屈なんかじゃねぇんだろうよと、
懐かしい声がそんな風に答えてくれたのは………


  「……はにゃ?」


深夜のニュースを観ながら寝オチしたから、
それで見られた夢かしら。
だって、

 “イブニングエンドのナレーションの人、
  サンジと声が似てるもんなぁ。”

もしかしてそれって、ヒラタ某さんと言いませんか?(笑)
アニメに海外ドラマに引っ張りだこな忙しさで、
劇団のお仕事はいつやってんだと思うほどの露出だというに、
最近、中井某さんみたいに
あちこちでナレーションもやってはりますものねぇvv

  という、脱線はともかく。

雨になれば油断のならない肌寒さが戻ってくるものだから、
ちょっと健康に自信のないお年頃の方々だったりすると、
あたしゃ騙されないんだからねと、
まだまだ肩掛けやカーディガン、
合掛け布団なんぞを仕舞わずにいらしたりするような。
ちょっとくどい関西の●本興業のギャグみたいな繰り返しへ、
律義にも付き合ってのこと、しっかと用心していなさるが。
元気が一番なお若い方々ともなれば、
多少は読み違えてしまい、
うっかり鼻風邪引いてもダイジョブダイジョブと言わんばかり。
一足早い真夏の装いで、
陽の照る中を軽快に駆け回ったりもしておいで。
最近は浜辺の装いを町中で着ていても
行儀が悪いと柳眉を立てる方が野暮なんだそうで。
夕涼み、よくぞ男に生まれけりとか言って、
男だからこそ、ステテコ姿というチョー軽装で
表へ出した床几に腰掛けててよかったのはもう過去のお話。
今や、それって水着ですか下着じゃないんですかと
同性でも困りそうなあられもない格好で、
昼間の繁華街を闊歩する、お嬢さんたちも少なくはない時勢ですからねぇ。


 「……で、それはどういう冗談だ。」


実はきっとうっすら怒っているのだろうに、
何とも響きのいいお声で、
わたくし、あなたへ問いただしておりますことよというの、
彼なりの言い回しで突き付けているゾロなのは。
お帰り〜っとお出迎えしてくれた奥方が、
何とも奇天烈ないで立ちだったのへ、
ギョッとしたからに他ならぬ。

 「え?え? 何が?」

さあさあ上がって、こっちへおいでと
先導よろしく先にリビングへと戻りつつ、
よく判んな〜いっと素っ途惚けているものの。
しなやかな肉付きの二の腕へ
スルリと艶っぽく落ちかかったは、メッシュのジレの肩口で。
それをちょいと直して見せる辺り、

 “確信犯としか言いようがないぞ”と

それでなくともいかつい造作のお顔を、
どこの頑迷な職人さんとの真摯さ論破でも
きっと見せなんだくらいに引き締めたものだから、

 「ゾロ、三白眼は反則。」
 「うっせぇなっ。」

今日は豚の串焼きと石焼きビビンバだぞ、
柔らかくなるよう酒とショウガ汁に漬け込んだのを、
回鍋肉用の味噌ダレにつけて焼いてあっから、
そりゃあもうもう飯が進むぞと、
言ってる端から
“ああ口の中が冠水しそう…”なんて自分でボケつつ
とっととご飯へなだれ込もうとしている奥方だけれども、

 「だから、そのふざけた格好はどうしたと訊いてんだ。」

 「ココナッツパルフェの今年の新作の、
  ビスチェとネットジレ、
  ショートパンツと合わせた夏のアレンジで〜す。」

昨年レースやオーガンジーといった透ける素材が流行ったのの名残りか、
今年も似たようなののレイヤーファッションが流行るそうで。

 「レイヤー…。」
 「判るように言うと、重ね着だ。」

クラシカルなAラインのやセミタイトの
ハイウエストなスカートがこの夏は“お洒落”なんだそうで。
チェック柄のブラウスや
サマーニットのカットソーに合わせるもよし。
リゾート地なら いっそ、
セパレーツ水着を思わす“ビスチェ”というボトムを合わせて
ウェストをチラ見せするもよし。

 「此処はリゾートか、そしてお前は おされな女子高生かっ

 「やんっ。エミちゃんは似合うって褒めてくれたのにvv」

 「今からそんなカッコして、真夏はどうする気なんだよっ。」

 「エアコン入れたらいいじゃんか。」

 「う…。」

実をいや、もうすでに試運転済みのロロノアさんチだそうで、
こういうところで足元掬われるのが、
迂闊というか、筋肉バカというか、あわわ…。

 “…うっせぇよ

朝一番は、ランニングタイプのタンクトップに、
ぶかぶかなボーダーのドルマン袖風シャツを重ねて、
肩を落としつつ着ていた奥方で。
それへ合わせた濃いめの色合いの、
細腰が可憐に引き立つ、
スリムなクロップドパンツも愛らしかったのに。
女子高生かという文句に合わせたか、
それもお友達らしい女性の名が出て来たのへ、
だがだが ゾロが怪訝そうに眉を寄せて、

 「…つか、ココナッツパルフェっつったら、
  ウチの古参の取引先じゃねぇかよ。」

 「うん。そこのバイヤーさんだよね? エミちゃんて。」

そういう、契約がもはや常態化している取引先には
冒険心旺盛で新規開拓専門なゾロだと遠ざかってて久しいはずで。
よく思い出しました、というお顔になって見せたルフィさん、

 「もう何年前になるか、
  イベント先で紹介されたの覚えててくれてさ。
  駅前のプラザにテナントが入ったの覗いてたら、
  キャ〜ンvvって飛びつかれて、
  今年の新作なんだよってこれ着せられたんだけど。」

 “あんのお人はよぉ〜〜〜〜っ

そういや一番最初、
販促イベントを見に来ていたのを“従兄弟です”と紹介したおりも、
何度“男ですから”と言っても、
ティーンズ女子の新作ばかり薦めていたよなと。
こちらもさすがは商売がらか、
すすす〜っと思い出しての そこへはやっと納得がいったらしいが、

 「それにしたって、何でそれをずっと着てるかな。」

 「だってせっかく半額にしてもらったんだし、
  とはいえ 表ではさすがに着れないし。」

ねえ?と、小首を傾げる仕草も愛らしく
同意を得ようというお顔になったのへ、

 「………よく出来ました。」

さっきまでのお怒りと憤慨はどこへやら。
むんと胸張る奥方なのへ、
ともすれば凭れかかるよになって、肩へ手をおくゾロだったりし。
要は よその見知らぬ野郎の眼福になるのが許せないだけという、
そちらも結構、ざっくりと偏ってるご亭主、
やっとのことで安堵したらしくって。
クールビズってどこの国の何のことという、
相変わらずのスーツ姿の襟元から、
ネクタイを毟るように解きながら、
大きな吐息をつくのが現金だったらありゃしない。

 「…にしても、そんなカッコって落ち着けねぇんじゃないのか?」

はいどーぞと普段着のビッグTシャツにイージーパンツを差し出され、
素直に着替えるそのついで、
やはり目が行ってしまうほどに、何ともあらわな格好のルフィさんへ、
そんな風に聞いたらば、

 「ん〜、どうだろな。
  ちょみっとぴったりし過ぎてて、腕とか上げにくいけど。」

素材はいいから涼しいし、
タンクトップだとずるずるしてて野暮ったかったから、
俺はこっちのが良いなぁなんて。
あくまでも小柄だからという主張をなさる。

 「そっか?
  ぶかぶかなのが また可愛いんじゃねぇか。」

自分でキッチンから缶ビールを持って来て、
ぱしゅっと開けると早速の一口をかぁーっと堪能。
そんな間合いだから尚更にか、
自分の萌えをついつい口にしちゃったらしいご亭主なのへ、

 「…そうだったよな。
  ゾロってその成りで、
  カレ氏のワイシャツとか ブカってるのを着てる女子が
  可愛くて好きってなタイプだもんな。」

 「ま〜だネタにするか、ややこしい萌えDVD。」

キスの日のお話 参照ってか?(こらこら)
やれやれだよなと言いつつ引っ込んだキッチンで、
グリルに向かう格好になり、リビングへお背
(おせな)を向けたの良いことに。
こっそり口許がたわんでしょうがない奥様なのは 此処だけの内緒。
何だかだ言ったって、お互いが大好きだし、
相手の好みや身上くらいは、ちゃんと把握しておいでのお二人なので。
たまに飛び出すルフィのお茶目も、
さほどにご亭主を困らせることはないまま、
のぞき見する人を辟易させるだけの、甘い甘い代物なのでありましたvv

 “……え? 誰か覗いてんの、ウチって。”

  お後がよろしいようで……。




      〜Fine〜  14.06.21.


  *ご亭主があまりに薄着になるのをいやがるのは、
   実は、よその人へ見せるのが勿体ないからだけではないそうで。

   「? 他の理由ってなんだ?」
   「そんなもん、決まってんだろが。」

  答え、自分で剥く楽しみが少なくなるからだそうです。
  いやぁ男のロマンってか?

   「…♪」
   「そういうもんなんか?」

  今度こそ、お後がよろしいようで。(笑)


*ご感想はこちらvv*めるふぉvv

**bbs-p.gif


戻る